新たなる可能性
約束の時間ぴったりに、彼は現れた。
「セイランさ〜ん。」
呼ばれて、セイランは振り向いた。
そこに居たのはランディ。
愛しい彼の恋人は、昨日までの落ち込みが信じられないほど、明るい顔だった。
アルカディアに来て100日が過ぎ、もうすぐ別れが来る。
それを、昨日までのランディは、気に病んでいた。
「どうかしたんですか。ランディ様?」
一瞬、嫌な予感が湧き上がる。
(守護聖様の誰かから告白でもされたのかも・・・?)
同じ時間の中で暮らす彼らだ。
もし告白されたとすれば、彼らを選んだとしても不思議はない。
「ふふっ。」
明るい顔で微笑んで、ランディはセイランの隣に腰掛けた。
そして、ポツリと話し出す。
「昨日ね、マルセルと話したんです。」
やっぱりという思いが横切る。
ランディの顔に、昨日までの不安はない。
マルセルとランディは元々仲が良くて。
いつこうなってもおかしくはなかった。
無性にマルセルが憎らしくなる。
それでも、目の前で幸せそうに話すランディを恨む気にはなれない。
(僕もバカだな。)
これから自分を振ろうとしている青年の横顔に見とれる。
「それでね、思ったんです。今を一生懸命生きようって。」
「え?」
言われた言葉は、別れを告げる言葉ではなかった。
前向きな、ランディらしい言葉。
「今を一生懸命生きようって。後悔しないように。」
そう言って微笑む。
今から別れを考える必要はない。
だって、まだ20日もあるのだ。
『たった』より、『まだ』で考えた方がいい。
「だから、一緒にたくさんの思い出を作りましょう?」
別れている間も、寂しくないように。
そう言ったランディに、セイランは微笑みかけた。
(本当は今日言おうと思ったのだけれど。)
セイランが作った、新しい可能性を。
けれど、もう少し黙っていようと思った。
(僕を不安にさせた罰ですよ。)
心の中で呟いて、セイランは再びランディに笑顔を向ける。
その笑顔は、一点の曇りもなかった。
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『たった』より、『まだ』。
『なんか』より、『だって』。
前向きなあなたが好きだから。
だからどうか、変わらないあなたで居て。
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