子供な戯れ



湖があった。
素通りするには美しすぎる湖に、天真は立ち止まる。

偶然見つけたそこは冷たそうな水を湛えていて。
天真は思わず近寄り、手を伸ばした。

水は思ったとおり冷たい。

うだるような暑さの中歩いてきた体に、その冷たさは心地よかった。

更に歩けば、きっと水辺に出るのだろう。
けれどこれ以上歩こうとは到底思えずに、天真はその場に座った。
崖、と言うほどではないが、水辺と言うには高さのあるその場所に腰掛ける。

水は結構な深さがあるように見えた。
ぎりぎり頭が出るかそれくらいだろう。

全身を濡らせば面倒なので、天真は靴と靴下だけを脱いだ。

つま先が水に触れる。
天真はそのまま足首までを水につけた。

まるで清められていくような感覚が足から全身へと広がった。

座ったままでは足首以上をつけることは叶わず、天真はそのまま、その感覚を甘受する。

しばらくその感覚を味わって、それからふと湖の中心に視線を投げた。

「・・・っ!!」

その瞬間、体が強張った。
足に伝わった強張りが、湖に波紋を寄せる。

湖の中央には長く青い髪の人物がいた。

その人物がゆっくり振り返る。
まるで天真が息を呑んだのが聞こえたかのように。
まるで天真が作った水の波紋が伝わったかのように。

そして、振り返ったその人物を認めて・・・。

・・・天真は少し安堵した。

「頼久・・・?」

人物が近づいてくるのを天真は凝視した。
こちらに来るにつれてそれが頼久であるとはっきり分かる。

どうやらこの湖は天真の居る場所に近づくにつれ深くなっているようで、
天真の前に来た時、水は頼久の胸を覆っていた。

「天真、何故ここに?」
「歩いてたら見つけたんだ。お前こそ、何やってるんだ?」
「身を清めていた。お前もどうだ?」
「いや、いい。」

相変わらず堅物だ、などと思いながら天真は首を振る。
ジッと天真見る頼久はどこか残念そうに見えた。

そんな頼久を怪訝に思い声をかけようとしたその時だった。

「悪いが、手を貸してくれるか、天真?」
「?」
「もう、上がろうかと思うんだが・・・?」

先ほどの表情をまったく消して、頼久がそう言った。
それに少し安心して、天真は頷いてから手を貸した。

そして・・・気付くと水の中に居た。

「頼久!!」

頼久に思いっきり引っ張られたせいだ。
天真が睨むと、頼久は笑った。

「こんなに気持ちいいのに、入らなければもったいないだろう?」

その子供のような無邪気な笑顔に、思わず許しそうになる。

「しょーがねえな・・・。」

だけど、それで許してしまったと知られるのは癪だから、天真はワザとそう言って。
それでも許したと分かるように、頼久に水を掛けた。
頼久と同じように、無邪気な笑顔を浮かべて。

頼久もやっぱり先ほどと同じように笑顔で天真に返す。
二人の大きな子供達は暫く戯れていた。









水音を聞きながら、二人、子供に返ろう。
交わらなかった時間を埋めるように。



と言うわけで、久々の聖和嬢のリクです。
子供、ですねぇ、頼久。
最初は、もっとお兄さんvって感じにしようと思ったのですが。
屈託なく子供のように笑う頼久もいいかなって。
それでこんなに子供っぽくなってしまいました。


(2004.6.27)