紫陽花の詩



ただ、何気なく毎日を過ごしていた。
変わらぬ日常、戻ってきた灰色の日々。
あの人を失ってから、俺の時は止まった。

俺の時は止まったのに、日常は流れる。
その流れに戻る事無く、俺は今を過ごす。

ふと目に入った本棚の本。
いろいろなものを詰め込んだソコに、見慣れぬ本を見つけた。

見慣れないものなど無いはずなのに。

なぜなら、その本棚は俺のものだからだ。
当然、ソコに並ぶ本も俺のものだ。
だから、見知らぬ本など無いはずなのだ。

見つけた本を手にとって見る。
薄い青の表紙にはタイトルが無い。

厚くも無く、薄くも無く。
その本をとるとなぜだか手にしっくりときた。

その名も無い本を開いてみる。
1ページ目は白紙。

ページをめくる。
次の瞬間、その手は止まった。

2ページ目には鮮やかな紫陽花の絵と、それから詩が書いてあった。

懐かしい、あの人の字で。

俺の目はその字を辿る。

『紫陽花は色を変える。
  雨が降るたび色を変える。

  ナゼ色を変えるのか。

  それは空を慰めるため。
  涙を流す空を慰めるため。

  紫陽花はその涙を拭う手を持たないから。
  だから色を変える。

  ただ、空が泣き止むのを望みながら。』

短い、詩。

それを読み終わって、俺の手がページをめくる。
まるで、何かに急かされるかのように。

続くページには、詩が書かれていたり、絵が描かれていたり。
あの人そのもののようだと、思った。

やがて、本は終わった。

最後のページにあったのは、詩でも、絵でもない。

あの人の言葉、だった。

それを見た瞬間、涙が出た。

「セイランさん・・・っ。」

あの人の名を呼ぶ。
去ってしまった人。
もう会えない人。

涙は次から次へと溢れ出て、視界に入るあの人の言葉は滲んでいた。

それでも、一度見たあの人の言葉は、何度も頭の中で繰り返される。

『愛しい人へ

  愛しい君に、この本を贈る。
  最初で最後の僕のプレゼント、受け取ってくれるだろう?

  君がコレを目にした時、僕は傍に居ないだろう。
  君がコレを見たとき、どんな顔をするのか見れないのが残念でしょうがないよ?

  ただ、願わくば泣かないで。
  もう、僕は君の涙を拭うすべをもたないのだから。
  紫陽花のように遠くから君を見ることしか、もう出来ないのだから。』

あの人の声で、本の最後にあった言葉が繰り返される。
涙は、いつまでも止まりそうになかった。









貴方が俺にくれたうたが、今も胸で廻っている。
泣くな、なんて無理だよ。
だって、俺、今もこんなに貴方を想ってる。



という訳で、紫陽花の詩でした。
コレは元々、ランディ様祭り用に考えていたネタでした。
駅でふと、紫陽花って何で色が変わるんだろう、と思ったんですね。
いえ、まぁ雨の成分で、とかいう夢の無いことは置いといて。
私なりの答えは『空を慰めるため』でした。
で、空=ランディ、紫陽花=セイランな話になりました。
暗くなってしまいましたねぇ。
出来れば、Happy End な続きを書きたいと思ってます。
因みにタイトルは『あじさいのうた』と読んで下さい。
(↑くだらないこだわり。)


(2004.7.11)