恋人達の休日



ただ、静かな休日だった。
一人で過ごす休日はつまらない。
本当なら、恋人とでも過ごせばいいのだろうが、
ランディの場合、それも出来なかった。

なぜなら、彼の恋人は男であり、同時に同僚でもあるからだ。

鋼の守護聖ゼフェル。

それが彼の恋人の役職と名である。

そんな訳で、おいそれと彼と過ごすわけにはいかない。
バレてしまってはゼフェルに迷惑がかかるのだから、とランディは溜息を付いた。

それに、だ。
万一、バレてしまう・・・という危険性を除いても、
今日、ランディはゼフェルと会えない。
なぜなら、ゼフェルは今日、執務として出張に行っているからだ。

それでも、会いたい、と思うと思いはつのり、
とうとうランディは横たわっていたソファーから身を起こした。

確か、出張は今日で終わりのはずだ。

(迎えに・・・いってみようかな。)

思い立ったと同時に、体は動いていた。
幸い、服はもう着替えていたし、後は家を出て、星の小路へ行くだけだ。

(ゼフェル、驚くかな?)

いつも驚かされてばかりだし、
たまにはいいかも、と笑顔になりながらランディは家を出た。





星の小径には、あいにく先客が居た。
その存在を認めて、ランディは息を呑む。
それは・・・。

(陛下?)

なんで、と思い、本人に聞いてみようと近付きかけたその時・・・。
音もなく、ゼフェルが小路に現れた。

「ぉ・ぇ・・・ぃ。」
「ぁぁ・・・。」

笑顔でゼフェルに駆け寄る女王と、どこか面倒くさそうに返すゼフェル。
声は風に消され微かにしか聞こえない。
それでも、ゼフェルが本気で嫌がってるわけでないことはランディには分かった。

「・・・、・・・・・・・・?」
「ぁぁ、・・・。・・・ぃぃ・・・?」
「ぁ・・・ぅ!」

(え?)

ゼフェルが何かを女王に渡したその瞬間、女王がゼフェルに抱きつく。
女王に渡されたソレは・・・。

(・・・指輪?)

小さな箱に入ったモノ。
箱は指輪を買った時によくいれるあの青紫の箱だ。

(・・・これって?)

何も、考えられなかった。
否、考えるのを頭が拒否していた。
本当は分かるのだ。
これが、何を意味しているかなど。

ガサッ。

足元がふらつき、後退ったときに、葉が鳴った。
ゼフェルと女王がランディを見る。

ゼフェルと目が合った瞬間。
ランディは逃げ出した。



風のように走った。
もっと速く疾く駿く・・・!!

息は上がったが気にしていられない。
葉が手を傷つけても、止まらない。

けれど、急に。
何かに腕を取られて、ランディは後ろに倒れた。
衝撃を覚悟して目を閉じるが、衝撃は来ない。

(・・・?)

恐る恐る目を開けると、ゼフェルの顔があった。
背中にゼフェルの手を感じる。
温かい。

「あっぶねぇな。」
「・・・ゼフェル。」

反射的にランディは身を起こしゼフェルに向き合った。

「よう、どうしたんだ、蒼い顔して?」

ゼフェルはいつもと変わらない。
それが余計に腹が立った。

どうした?
オマエのせいじゃないか!

「別に、なんでもない。」

それでもランディは叫ぶ事をせず、ゼフェルに背を向けた。
そんなランディの手を再びゼフェルがとる。

「オメーなぁ・・・。」

呆れたような口調が頭にくる。
気が付けば手を振り解いていた。

「別に、なんでもない。ただ、迎えに行こうかなって思っただけだ。」
「俺をか?」
「そうだ。必要なかったみたいだけどな。」

それだけ言ってふいっとそっぽを向く。
顔が熱いと自覚する。
きっと真っ赤になってるのだろう、自分は。

そんな事を思っていると、急にゼフェルに抱きしめられた。

「な、ゼフェル・・・離せ。」
「イヤだ。」
「ゼフェル?」
「ありがとな、ランディ。嬉しいぜ。」

しみじみと呟いたゼフェルに一瞬ほだされそうになり・・・。
けれど、ランディは誤魔化されなかった。

「・・・どうだか。」
「ん?」
「俺以外にも言ってるんじゃないのか?陛下とか。」
「は?陛下?」

すっときょんな声を上げて、次の瞬間、ゼフェルは笑った。

「そうか、オメーだから・・・ククッ。」
「ゼフェル?」
「俺が陛下に抱きつかれてるとこ、見たんだろ?」
「・・・そうだけど。」
「アレはな、俺の土産に感極まってだよ。」
「土産・・・指輪?」
「あぁ、知ってたのか?陛下に頼まれたの?」
「頼まれ・・・え。」
「ん?」

まさかそれも誤解しました、とは言えなくてランディは俯いた。
それをゼフェルは首をかしげて見ていた。

「・・・ゼフェル、ごめん。」
「別にいいぜ?あぁ、でも。」
「何?」
「まだ、オメーから聞いてない。」

何をとランディが尋ねると、ゼフェルは優しい笑みをつくって。
ランディの耳元に聞きたい言葉を吹き込んだ。
それを聞いて、ランディも穏やかに笑う。

「あぁ、そう言えば言ってなかったな・・・。おかえり、ゼフェル。」
「ただいま、ランディ。」

そうして、恋人達は一日、久しぶりに一緒に休日を過ごしたという。