優しい雨の日



急に、雨が降ってきた。
空は朝からどんよりと曇っていて、何時降ってもおかしくないとランディも思っていた。
けれど、だ。

(何も、今降り出す事はないと思う・・・。)

特に急ぎの用事は無い。
けれど、急に、それもいざ出かけてしばらく歩いた途端に振り出した雨に、
そんな風に思ってしまったとしてもランディに罪は無いだろう。
折角出てきたと言うのに、これでは意味が無い。

(帰れって事かな・・・。)

珍しく溜息などついて、そんな風に思う。
けれど、走って帰るにしてもずぶ濡れになりそうな距離。
雨脚はいっそう激しくなるばかり。

そんな中、たまたま雨宿りできる場所を見つけられた事だけは不幸中の幸いだろうと思う。

もっとも、小さな幸いを喜ぶ気にもならなかったが。

(こんなことなら、部屋で過ごせばよかった。)

後悔先たたずとは、よくいったものだ。
そんな言葉を思い出し、しみじみと納得しながらランディは空を見上げた。
傘を持ってくればよかったと、自分の浅はかさを後悔しながら。

用事は無いが、だからといって、無為に時間を潰すのは勿体無く感じて。
ずぶ濡れを覚悟で走って帰ろうか、
それとも、もう少しやむのを待つかランディは本気で悩んだ。
雨は、まだ止みそうに無い。

(走るか。)

「ランディ?」

ランディが走り出そうとしたその時、声がかけられた。
ちょうどランディが駆け出そうとした方向と反対側からゼフェルが近寄ってくる。
その手には傘が握られている。

「なんだ、おめーなにしてんだ?」
「別に・・・。」

なんとなく気まずくて、そっけなく言ったランディにゼフェルがははぁんとばかりに笑った。
それがなんだか馬鹿にされたみたいでカチンとくる。
そんなランディに気付かないのか、ゼフェルはからかうように言ってきた。

「おめー、傘ねぇんだろ?」
「そうだよ・・・悪かったな。」

憮然とした表情のランディに、ゼフェルが笑った。
さっきのように意地悪に感じる笑みではなくて・・・それがどこか優しく見えて。

「入れよ。」
「え?」

思わずまじまじとゼフェルを見ていたランディは、
言われた言葉を理解するのが一拍遅れた。

「えっと・・・ゼフェル?」
「入れよ。そんな狭くねぇし、二人くらい入れっだろ?」
「うん、入れるとは・・・思うけど・・・。」

傘は確かに大きくて、二人くらいは軽く入れそうだった。
けれど、問題はそこではなくて、だ。

「どうしたんだ、ゼフェル?」
「あ?」
「熱でもあるのか?気分が悪いとか?」

ゼフェルとは凄く仲が悪い、という訳ではなかったが。
それでも、そんな風に言ってくるなんてゼフェルらしくないとランディは思ってそう尋ねる。

「おめー・・・それが入れてやろうっていう人間に対する言葉か?」
「え・・・あっ・・・。」

ようやく自分が失礼な事を言ったと気付いたランディは口を押さえる。
それからゼフェルを見ると・・・普段なら怒るだろう彼は溜息をついただけだった。

(・・・やっぱり、具合悪いんじゃ・・・?)

「で、入るのか?入らねぇのか?」

相変わらず失礼な事を考えるランディの思考を止めるように、ゼフェルが声をかけてくる。
それを聞いて、ランディは考えをやめて顔をぱっとあげる。
その目に、困ったような、そのくせ微笑むゼフェルの顔。

「入る。」
「そっか。じゃあほら。」

頷いてランディは差し出された傘に入った。
それからそっとゼフェルを伺い見てみると、
どこか機嫌のよさそうなゼフェルの顔が近くにあった。

(どうしたんだろ、ゼフェル・・・。)

「どうした、ランディ?」

心の声に重なるように問われて、ランディは何でもないと首を振った。
それから、ルヴァ様の苦労が報われたのかもしれない、
と明るく考えて、そっと雨に感謝した。
雨のお陰で、ランディのゼフェルに対するイメージはがらりと変わった。

それは優しい雨の降る日の事だった。










寒い寒い雨の日に
凍える身を抱きしめた
なのに、君が優しさくれたから
俺の心は温かくなったんだ



そんな訳で、3周年です。
久々に書いて・・・書きかたを忘れてました。(マテ)

今回は珍しく、恋人同士になる前の二人です。
結構ランディ様が失礼な事を言ってます。(笑)
が、全て愛ゆえって事で。(爆)

出来れば続きを書いていきたいなぁと思います。


(2006.1.8)