夢の狭間
−後編−



目が覚めると、見知らぬ部屋に居た。

趣味は悪くないと思う。

見知らぬ・・・けれど、どこかで見たような部屋・・・。

けれど、どこで?

この部屋はどこ?

どうしてこの部屋に居る?

たくさんの問いが浮かび上がってくる。

思い出そうとしても思い出せない答え。

確かに私は答えを知っているはずなのに?

考えると頭がズキズキ痛んだ。

それでも、私は考えるのをやめなかった。

そして、ようやく気付く。

夢の中の部屋にそっくりだという事を。

どんな夢かは忘れたが、幸せな夢。

思い出そうと、思いを馳せる。

「気が付いたか?」

不意に。

聞き覚えのある声が、扉が開くと共に聞こえた。

その声に私は思わず反応して、ガバリと体を起こした。

「つぅ・・・?」

瞬間、あらぬ所に痛みを感じて顔をゆがめる。

「大丈夫か!?」

珍しく慌ててオスカーが側までやってきた。

不意に夢を思い出した。

けれど、痛みは現実のもので。

では、夢だと思っていたあれはもしかして・・・?

頬が火照るのが分かる。

そんな私をオスカーが覗き込んできた。

「昨日はすまなかった。」

何に対しての謝罪か分からなかった。

思い当たる事はたくさんある。

約束を破った事。

嘘をついたこと。

私を抱いた事。

「それは昨日の嘘の事ですか?」

言った私にオスカーが不思議そうな顔をした。

視線で続きを促してくる。

「あなたは昨日、女性と歩いていた。」

他人事のように淡々と言って、視線を逸らした。

「彼女とすればいいじゃないですか・・・あんなこと。」

頬が熱くなるのが分かる。

夢だと思って・・・だから甘えて。

それが恥ずかしかった。

所詮、オスカーにとっては数ある事の一つで。

『愛してる』と囁く事さえ、他愛ない事の一つなのだ。

あの言葉を本気にして、『愛してる』と返さなかった事に私はほっとした。

「彼女は違う。」

何が違うというのだろう?

オスカーを見ると、視線だけで私の言いたい事を理解したらしい。

「彼女は陛下の客人なんだ。それに・・・。」

アイスブルーの瞳に見つめられて、私は再び視線を逸らした。

なぜか直視できなかった。

「俺が抱きたいと思うのはお前だけだ。」

言葉はとても嬉しいものだった。

けれど、信用できない。

おそらく、たくさんの女性達にも同じ言葉を言っているのだから。

「戯言を・・・。」

軽く流した私を、オスカーは覗き込んできた。

逸らす事さえ許されない強い視線。

「戯言なものか。お前が好きで、だから抱きたいと思った。

 そうでなければ、誰が男を抱きたがる?」

言う事はもっともだった。

特にオスカーならば、相手に不自由していないはずだ。

「信じていいのですか?」

躊躇いがちに尋ねる。

「あぁ。」

オスカーは微笑んで、2つ返事で返してくれた。

そのまま抱きしめられた。



二人がその日一日ベッドで過ごしたのは言うまでもない。






夢の狭間で愛を囁く。
夢でもかまわないと思えるほどに、甘く。
そう、夢ならば目覚めなければいいだけ。


『この夢が覚めるまでは』の後の話です。
この話の前編と後編の間に『この夢が覚めるまでは』が入るんです。
そういえば、裏のタイトルは『夢』がよく付く気が・・・。



                     前編へ        蒼い書庫へ