朝霧がかかっていた。 早朝の聖地に、馬の蹄が鳴り響く。 乗っているのは二人の男。 オスカーとジュリアスである。 それぞれに、栗毛と白馬にまたがり、さっそうと丘を目指す。 「どう。」 オスカーの掛け声とともに、馬が止まる。 一瞬遅れて、ジュリアスも馬を止めた。 気付けば、目的の場所に着いていた。 颯爽と馬から降りた二人は、さながら、物語から出てきたかのようだった。 「相変わらず、美しいな。」 丘からは、聖地の主要な場所が一望できた。 宮殿、炎の館、王立研究院。 霧が一部を隠してしまってはいたけれど、その眺めは見事で。 ジュリアスは、一言を洩らした後、魅入っていた。 オスカーとこうして馬を並べるようになって、いったいどれほどの時がたっただろう? 聖地に召されたころは、まだほんの少年で。 それがいつしか、右腕と頼るようになっていた。 そして・・・。 そして、今。 ジュリアスは、オスカーなしでは生きていけないとそう思うほどに、彼を思っていた。 (私らしくもない。) 心の中で呟く。 らしくない・・・と本当に思う。 たとえば、クラヴィスにでもいえば、嫌味の一つでも言われるのだろう。 「寒くはないですか?」 不意に言葉をかけられ、ジュリアスは思考の狭間から現実へ戻ってきた。 一瞬遅れて、あぁ、と微笑みとともに返す。 確かに今日は少し肌寒い。 そんなジュリアスの思いを読むかのように、オスカーが自分のマントを取り、 羽織らせてくれる。 「オスカー?」 「風邪を召されては困りますから。」 言い訳のように言ったオスカーにもう一度笑みを浮かべる。 長い時をオスカーと供に過ごした。 守護聖の交代にも、女王試験にも供に立ち会った。 そして、そんな時を経て、自分は緩やかに、しかし確実に変わっていった。 穏やかに・・・。 後、どれだけこの時を過ごせるのだろう? 最後の時まで、オスカーは自分を愛してくれるだろうか? 不安は尽きない。 それでも、オスカーの笑みを見ると、そんな不安さえ消える。 きっと、この思いは杞憂に過ぎないと思える。 「オスカー、ありがとう。」 穏やかに言って、ジュリアスが再び聖地を見下ろすと、太陽が生まれる瞬間だった 不安が本当に杞憂に過ぎなかったとジュリアスが知るのは、まだもう少し先の話。 |